2023年11月18日

『異国人たちの江戸時代』と『増補新版 現代語訳 墨夷応接録・英国策論』

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秋が限りなく短期間になって、夏から冬への移行が恐ろしくスピーディ。こうなると衣服を如何様に纏うのが適切か悩ましく、そのために気軽に外出すら出来なくなってしまう訳です。果たして、衣服の選定の際には、社会性を優先すべきか、あるいは単純に機能性を優先すべきか。このように愚問を立てている間に、冬はより本格化していくのでありましょうね。エブリシング・フロウズ。

さて、あまりにもブログを更新していないと、更新の仕方自体を忘れてしまう訳ですが、現在の私がまさにその状況に陥っています。前回の更新から、約11ヶ月。今回は久し振りの新刊をご案内したく、つらつら書いてみる決意をいたしました。

1. 『異国人たちの江戸時代』(作品社)2023年11月22日発売

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遂に世に問えることを、心から嬉しく思います。魂削って準備して、魂削って書き続けた、外国人による見聞録によって、江戸期日本を眺める一冊です。驚くほど直球の内容ですが、だからこその苦労がありました。

江戸時代の日本の様子を「外国人による言葉」で描出した本は数多く存在しますが、実は、そのほとんどが幕末以降の記録ばかりを用いています。つまり、開国後にやって来た人々の見聞録を利用しているのです。それに対して、本書は江戸時代初期から、中期、後期、幕末まで、江戸時代265年間のほとんど全てをカバーすることを心掛けました。つまり、彼らの言葉によって、江戸期日本の変化までも描出しようと試みたものです。近年、江戸時代は「独立した一つの文明」のように語られることがあります。しかし、私はこの見方に賛同できずにいます。江戸時代は、生成と変化に満ちた期間であり、初期と後期とを比べれば、共通点よりも相違点の方がずっと多い。江戸時代を一文明と捉える史観は、同時代の雑多な事象を共通の方向性で括ってしまうものであり、様々な可能性を視野の外に追い遣ってしまうものに感じています。

本書で取り上げた外国人は、実に20名。おそらく、江戸時代を知ることに加えて、彼ら自身の人生も面白く追っていただける内容になっているのではないかと思います。彼らの多くは教養ある誠実な人物ですが、あえて、生き様のみならず見聞録までも出鱈目なアウトローも含めました。

この本には幾つかのテーマがありますが、その中の一つは、鎖国という政策が、如何に多くのエネルギーを必要としたものだったかを、外国人の見聞録によって浮き彫りにすることでした。つまり、鎖国は静態的政策ではなく、動態的政策だったことを広く知らせたいと思ったのです。それに成功したかどうかは、読んで下さった方々の判断を待つしかありません。

テーマについては、もう一つだけ明らかにしておきたいと思います。それは、「江戸時代の日本」と言われたとき、ほとんど意識されない「名もない庶民」と「その生活文化の様相」を、外国人たちの見聞録によって明らかにすることでした。とにかく明るくて、好奇心旺盛な彼らの姿は、江戸時代の活力が何を基礎としていたのか、我々に教えてくれるものです。

全484ページ、文字がいっぱい詰まった本です。江戸時代と日本の来し方に興味を持つ方全てに、ご覧いただきたいと思っています。

2. 『増補新版 現代語訳 墨夷応接録・英国策論――幕末・維新の一級史料』(作品社)2023年11月22日発売

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そして、作品社さんからもう一冊、同日刊行される本があります。5年前に出版した、あの『墨夷応接録』の増補新版です。旧版はしばらく品切れになっていましたので、ご関心おありの方は、今度こそご入手下さい。

なお、今回の増補新版は、解説などが増強されただけではなく、なんと『英国策論』(正式には『策論』)の日本語原文と現代語訳まで収録されています。言うまでもなく、『英国策論』はアーネスト・サトウが著わした、歴史を動かした書です。これと『墨夷応接録』が一冊で読めるなんて、贅沢ここに極まれりでしょう。一言で表現するならば、学生の頃の私が一番欲しかった本です。

『墨夷応接録』の価値はもう改めて説く必要もないと思いますが、『英国策論』も幕末の日本を知る上で絶対に読み込まなくてはならない書です。それにも拘わらず、何故か現代語訳が全く出ていませんでした。かの『遠い崖』にも、抄訳(しかも英語原文からのもの)しか掲載されていません。今回、特に若い人々でも読めるように、可能な限り明快に『英国策論』(日本語版)の文章を現代語訳しました。

『英国策論』は短い論説でありながらも、そこに込められた熱量からも、荒々しい理路からも、倒幕派の「志士」を鼓舞したに違いない一書です。少なくとも、これに触れずして大政奉還という歴史的事件を語ることはできません。そして、サトウという若い(当時22歳です)イギリス人が、なぜ将軍をかくも憎悪し、日本の体制を変革したいと考えたのか、この論説を読めばかなり理解できると思います。ところどころ事実誤認があり、論説としての整合性も欠いていますが、それが逆に当時の切迫した状況を感じさせるものとなっています。

幕末という時代のみならず、広く異文化の交流やそれに伴う軋轢に関心がある方々にも、お読みいただきたいと思います。

森田健司
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